「宝くじに当たった!」くらいの幸運で、ついにウミガメの赤ちゃんがふ化し、海に向かって一生懸命に走る場面に出くわした。こんなに感動したのは生まれてはじめてかもしれない。しかも、その様子をビデオに撮影することもできたのです。その映像を皆さんにも是非ご覧いただたきたいと思います。

 ここ一宮海岸には夏になるとアカウミガメが産卵にやって来ます。日本ではほぼ北限にあたるらしい。毎年ほぼ10数個の巣が確認されています。産卵から70日ほどで卵からふ化した子ガメが這い出てくるということです。今年のある発掘調査によると1つの巣での産卵数が137個、うち無事に脱出できたのが26匹だったので、約19%の脱出率と例年になく低くなっています。この海岸も年々、ウミガメの産卵に適した場所ではなくなってきているようです。

 一宮海岸をはじめ九十九里海岸では深刻な「浜欠け」が進んでいます。年々砂が削り取られ、砂浜が狭くなっているのです。いろいろな要因が考えられますが、ひとつには、コンクリートで塗り固められた川からの砂の供給が少なくなっていることがあげられます。

 浜欠け防止のためのヘッドランドや防潮壁などでなんとか食い止めようとしているようですが、この防潮壁がウミガメの産卵を阻んでいるのです。産卵のため上陸したウミガメの母親は高潮などでも波をかぶりにくい安全な場所を探すのですが、行く手を防潮壁に阻まれ、その度に方向を変え、また防潮壁に突き当たり‥‥、結局あまり安全ではない場所で仕方なく産卵してしまったり、産卵を断念して海に戻ってしまうケースもあるという。早朝の砂浜にはそんな母ガメの悲しいUターンの跡がくっきりと残っている時があるという。

 この貴重なウミガメとその産卵する海岸をいつまでも残したいと地元では「見守る会」などを作って観察・調査しています。今回もその「見守る会」の方から「昨晩4匹の子ガメが巣から出た」と聞いて、次の日の夜遅くまで待っていたのですが結局見られず、あきらめかけていた次の日(2005年10月15日)の夕刻、ディジュリドゥの練習でもしようと海岸に行ってみることにしたのです。ふと、ビデオも念のため持って行くか、と何気なく持って出たのが幸いした。ダメ元でのぞいて見た巣から何やら自転車のタイヤの痕のようなものが海の方にくねくねと続いていた。後を辿ってみてビックリ。巣と波打ち際との中程に1匹のウミガメの赤ちゃんがチョコマカと走っているではないか!! 慌ててビデオを車に取りに帰り、戻って撮影したのがこの映像です。暗くなりかけた午後5時15分頃、十三夜の月が海から昇り、ちょうど潮が満ちようとしている時でした。

 偶然そこに居合わせた家族連れのサーファー親子など10人ほどが、この子ガメの旅立ちを見送りました。アカウミガメは大平洋を回遊し、遠くアメリカ西海岸まで泳ぎ、またこの海岸に戻ってくるそうです。この子ガメが無事に成長し、またここに戻って来られることを祈りましょう。(え)


■ウミガメに関しての詳細はこちらに
  『HP九十九里浜自然誌博物館』
http://homepage2.nifty.com/beach99/