◆バタッドを訊ねて by 鈴木エージ
2015年11月、環境NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク（CGN）のお招きでフィリピン・ルソン島北部の山岳地帯を訪れる機会を得ました。それは現地の小学校の先生方や生徒さんに竹の楽器の作り方と演奏法を教えるワークショップのためでした。そしてその比較的近くに世界遺産に登録されている棚田の村があるのを知りました。

その音の景色をなんとしても見て聞いてみたい。その思いに駆られ、満月に合わせてスケジュールを調整し、山また山を乗り越えて、やっとたどり着いたところがBanaueのBatadという小さな村でした。村には、車で直接乗り入れる道もなく、山道を１時間ほどトレッキングしなければ行けない。しかし、そのお陰で自然音以外の人工的な音がほとんど入らない自然のままの音を録音することができました。

山肌一面を埋め尽くす見事な棚田。古いものでは2千年以上も経つものもあるという。その一枚一枚を作るのにどれほどの時間と労力が費やされたことだろう。その途方もない年月の間、ずっと変わらずに聞こえ続けていたのがこの音だ。棚田は徐々に闇に染まり、やがて東の方角に位置する三つの頂きをもつ山の真上に満月が昇る。虫のこえ、ヘンテコなカエルの鳴き声、鳥や動物達の寝息、ホタルの明滅…。全てを包みこみ音は時を刻んでいます。100年先もどうか同じ音の景色が広がっていることを祈って。